ジャズの本場N.Yで、数多くの偉大なジャズメンたちとの共演を果たし、次世代のジャズアーティストの育成にも尽力してきた名トランぺッター、フランク・ゴードンさん。2006年に、テキスタイルデザイナーである奥様のヨシコさんと沖縄へ移住後、がらまんホールを始め、各地でライブを開催しジャズの魅力を伝えている。6月に控えたライブを前に、フランクさんが考えるジャズの魅力についてインタビューした。
ー沖縄へ移住される前のフランクさんは、シカゴの前衛ジャズ集団AACMでの活躍や、数多くの名アーティストたちとの共演のほか、次世代のジャズアーティストの育成に務められるなど、数多くの功績を残されてきましたが、だからこそ沖縄への移住はご自身の人生の中でも大きな一歩となったのではないですか?
ヨシコ そうそう。彼の場合は、一緒に演奏してくれるミュージシャンが必要だから、移住の一歩は大変だったと思います。
フランク 確かに。ここでは彼女なしではタクシーでさえ、1人で乗る事ができない。加え、ミュージシャンにとっては誰とプレーするかということがとても大事。言葉も通じず意思の疎通が図りにくい環境で、どうやって音を作り上げていくかが課題でした。沖縄のジャズで感じたのは、ジャズに対する概念が違うということ。文化が違えばジャズに対する考え方も違うのは当然。今こうして、数多くのコンサートを沖縄で開催できているということは、僕の音楽を理解し尊重してくれる方がいらっしゃるということの表れ。だから僕は皆さんに感謝しています。
ヨシコ:特にレイモンド(テナー・サックス奏者)は、フランクの音にとっても共感してくれて、これまで3度沖縄に来てくれたんです。彼のような実力派のアーティストとの共演は、フランクも心から楽しんで演奏していますね。
ー昨年のがらまんホールでのコンサート(2010年11月)でも共演されていましたね。
フランク:彼の奥さんが日本人でね。奥さんが、自分の両親とは日本語で話してほしいと願っていたので、彼は日本語を覚え始めたんだ。彼は30代だから、吸収も早く、日本語も上手になった。でも僕が沖縄に移住したのは66才だったから…(笑)。アメリカのことわざで「You can’t teach an old dog a new tricks」(年老いた犬に新しい技を教える事はできない)って言うフレーズがあるんだけど、まさにその通りだよ(笑)。
一同:(大笑い)
フランク:向こうに住んでいても、日々新しい言葉が生まれていて、面と向かって会話をしているからこそ、表情からのニュアンス、声のトーン、話し方などから気付くことがある。でも沖縄に移住してからは、海外とのやり取りの主流となるのがEメール。でも僕はEメールが大嫌いで(笑)。一文字一文字に込められた想いを、無機質な文字から汲み取る事はとても難しく、それに対して応える事もとても難しい。だからたった2、3行の文章を書くのに一週間を費やしてしまう事もあるんだ。
ー確かに。これが直筆の文章であればまた違うのでしょうけれどね。そういう意味では、時代が進化するにつれコミュニケーションを大切にする文化が、希薄になりつつありますよね。
フランク:そう。だからこそ僕は、ジャズ音楽においても、お互いの音に耳を傾け理解し、会話するように音を重ねていくことを大切にしています。そういう心地よい空間には調和が生まれ、その調和を保つことで、いい音楽が生まれる。クラシックの場合は、演奏者全員が、譜面や指揮者の指示に忠実に演奏する技術が求められる訳ですが、ジャズはプレイヤーの感性を大切にし、プレーヤー同士の音による会話によって、同じ曲でも、演奏する人や場所、時によって違った広がりをみせるのが魅力なんです。
ーそういう意味で、がらまんホールでのコンサートは演奏するミュージシャンだけにとどまらず、音作りに関わる全ての方、そしてファンの方々と、音楽を通してコミュニケーションが取れているからこそ心地よい空間がうまれているのですね。そして毎年回を重ねるごとに、最上のものに仕上がっていくわけですね。
ヨシコ:そうなんです。がらまんホールでのコンサートは、アーティストの人選から当日のプログラム、そして音作りに至るまですべてフランクに任せて下さっていて、そして皆さんが彼の音作りをとても理解して下さる。だからコンサートの前のフランクの意気込みは相当のものなんです。もう、ご飯を食べるのも忘れてしまうくらい…(笑)。
フランク:僕は夢中になると、お腹が空いているのも忘れてしまうのだけれど、スタジオで練習していると彼女から「そろそろご飯の時間よ」って連絡があって。お腹空いてないなぁ…って思うんだけれど、一口食べると実はお腹が空いていたことに気付くっていうか…(笑)
ー素敵な音楽が生まれる背景には、ヨシコさんの素晴らしいサポートも必要不可欠ですね。
フランク:僕が彼女との結婚を決めたのも、当時の彼女の家には彼女が描いた素敵な絵や、綺麗な花がセンス良く飾られていて、とても心地よい空間だった。こんな風に色んなところに気配りができて、心地よい空間を作れる人と一緒になれたらな…って。
ーなんだか素敵な話ですね。…とすると、今後はヨシコさんの絵とフランクさんの音楽を楽しむライブも期待できそうですね。
ヨシコ:来沖して一番最初にプラザハウスで開催した私の原画展では、一日だけ「アート&ミュージック」として、会場の一角でフランクのライブを開催したことがあるんです。
フランク:ヨシコは沢山の絵を描いていて、僕はそれを見るのが大好きだった。でも彼女はそのほとんどをクローゼットに閉まって、なかなか見る機会がなかったのだけれど、個展を機に色鮮やかで美しい作品がたくさん展示され、とても感動的でした。
ー今後のライブで、おふたりのコラボレーション企画はあるのでしょうか?
フランク:これまで僕は、慣れない土地での暮らしにヨシコのサポートをとても重要としていたけれど、今では少しずつ彼女の時間を割いてあげらるようになったから、彼女の新しい作品の中で演奏できる機会もあるかもしれませんね。
ヨシコ:実は6月2日に予定している「A June Night!!」では、会場に私の絵も飾れたら…と思っています。
ーそれは楽しみですね。ミュージシャン同士の意思の疎通、会場の雰囲気が揃ったところで、オーディエンスのリアクションもまた大きな影響を与えるのではないでしょうか?
フランク:それはとても大切。最初の曲はとくに、テンポや、メンバーとの連係にとても注意して演奏をします。演奏に満足してくれていれば、皆さんから手拍子や、体でリズムを取るなどの反応があり、そのバイブレーションはミュージシャンに伝わってきます。それがさらに音楽をより良いものにしていきます。例えば、四拍子の場合、タン、タン、タン、タンとリズムを刻むだけではスウィングできない。そこでオススメなのが、1拍と3拍は足で、2拍、4拍は手拍子でリズムをとること。ただし、ミュージシャンが率先してそのリズムを刻み続ける事が大切。例え手拍子がなくても、常にリズムとビートを意識することが演奏の基本。音楽を聞いてスウィングしつつ、特に良い音楽を感じたら、もっと心をオープンにして表現していただけると、それがミュージシャンに伝わりさらにより良い音楽が生まると思います。是非、ジャズの雰囲気に満ちた空間を存分に楽しんでもらえたらと思っています。
【プロフィール】
Frank Gordon(フランク・ゴードン/ジャズトランぺッター)
アメリカ、ミルウォーキー・ウイスコン州生出身。シカゴ・ルーズベルト大学、カヴァナーズ・ステイト大学にて音楽理論と作曲を学ぶ。また、シカゴの前衛ジャズ集団AACMに所属し、次世代のジャズ・スタイルを開拓したパイオニアの一人。 数多くの名アーティスト達との演奏も務めた。1992年からニュージャージー州、ニューワークのラッカス大学、マンハッタンにあるニュースクール/ジャズ音楽科、その他ニューヨーク公立学校等にてトランペット演奏を教えた。また、サバナ、ジョージア州のアームストロング・アトランティク州立大学にてジャズ音楽鑑賞、ジャズ・アンサンブル演奏を教えた。2005年沖縄へ移住。ジャズ、作曲、即興演奏の指導にあたる一方、沖縄のジャズ演奏家達との交流を続け精力的なライブ活動を行っている。
【Event Information】
JAZZ CONCERT “A June Night!!”
日程:6月2日(木)
場所:ビストロ 飯場まる Bistro Hamba-maru
沖縄県浦添市伊祖1-5-10
時間:1st 20:00〜/2nd 21:30〜
料金:4,000円(料理、1ドリンク込み)
出演:フランク・ゴードン
問合: ビストロ 飯場まる TEL. 098-878-7040
※好評につきチケットは完売いたしました
JAZZ FOR YOU JAZZ FOR TOHOKU
辛島文雄トリオコンサート
日程:6月29日(水)
場所:沖縄市民小劇場あしびなー(コリンザ3F)
時間:17:50〜 受付開始
18:00〜 ウェルカムコンサート(ドリンク&リキュール無料)
久場美咲、安慶名みさ
19:00〜 JAZZ FOR YOU, JAZZ FOR TOHOKU
辛島文雄トリオコンサート
料金:前売 大人2,500円 学生1,500円(高校生以下)
当日 大人2,800円 学生1,800円(高校生以下)
※全席自由/未就学児入場不可
出演:辛島文雄トリオ
スペシャルゲスト/フランクゴードン、金城沢子
問合:沖縄市民小劇場あしびなー TEL. 098-934-8487
※売上の一部を東日本大震災の義援金として寄付します