2021年1月5日
ORION BEER 100 OKI_INTERVIEW
Interview & Text:幸田悟
デビュー30周年スペシャルインタビュー
新型コロナウイルス感染症が世界を席巻している2020年、沖縄県石垣島出身の幼馴染の3人で結成したBEGINがデビュー30周年を迎えた。BEGINの名曲10曲で振り返る30年やメンバーそれぞれの思い出などアニバーサリーならではの質問から、コロナ禍でがんばっているみなさんへのメッセージまで、BEGINのデビューから現在を掘り下げた沖縄音楽旅行ならではのロング・インタビュー。
ーー BEGINデビュー30周年おめでとうございます。30年間でいちばんの思い出を教えていただけますか?
島袋優 僕は渋谷のPARCO劇場でやった、初めてのコンサート。緞帳がグーっと上がっていく中をボリュームペダルを使って弾くギターから入っていくんだけど、その時に「人間の足ってあんなに震えるんだな」ってくらい震えたのを覚えてる(笑)。
上地等 2004年くらいのことだと思うんだけど、ハワイで行われた『オキナワン・フェスティバル』。BEGINの初めての海外公演だったんだよね。移民された先輩、その子孫の方々の前でライブをさせていただいて感動しました。戦後、圧倒的な食糧不足だった沖縄に、ハワイ在住の沖縄出身の日系移民の方々が豚を送り届けてくれたというエピソードを知り、それがキッカケで「ブタの音がえし募金」が2005年にスタートしました。豚と同じ数、550本の楽器をハワイに送ろうと『うたの日コンサート』の会場でのみ募金箱を設置してます。みなさん、ご協力よろしくお願いします。
比嘉栄昇 いまパッって思いついたのがふたつあるんだけど……。大阪で開催された『琉球フェスティバル』でのこと。登川誠仁さんの前にBEGINが演奏してバトンタッチするというシチュエーションがあって……。あの頃、「島人ぬ宝」とかBEGINの島唄が盛り上がってるときで、しかもバンド編成だったから、「どうする?」って。「なんか、3人だけでアコースティックでしんみりやって手渡すか?」とか色々考えた末、「セー小(登川誠仁の愛称)先生だから、そんな失礼なことはできるか」とフルでやったんだよね。全力でやって、会場も盛り上がって手渡したわけですよ。俺たちはヒヤヒヤなんですよ。「あまりに盛り上げ過ぎて、俺たちは間違ったことをしてるんじゃないのかな」って。そしたらセー小先生は、三線片手にひとりでステージに出ていくわけですよ。飄々と歌い始めたら、マイクスタンドがとても高い位置にセットされてて、セー小先生はとどかないわけ。それでも気にせず、首を上に伸ばしながら歌い続けてたら、観客はもうBEGINのことなんて忘れて登川誠仁さんに釘付けになってる(笑)。これが達人の戦い方だと(笑)。
島袋 これはすごかったな。一瞬でドカーンとなりよった(笑)。
比嘉 もうひとつは、安室奈美恵ちゃんの引退のコンサート。なぜか俺たちも立ち会うっていう(笑)。大輪の華が枯れず去っていく。その神々しい背中を見送ったことも印象深かったですね。
ーー 「BEGINの名曲10曲とともに振り返る30年」という趣向で沖縄音楽旅行編集部で楽曲をセレクトしました。それぞれの曲について話を伺います
01. 「恋しくて」
島袋 BEGINは、結成した当初は打ち込みみたいなこともやってた。でも、「やっぱり3人でアコースティックでブルースをやろうぜ」ってことで作ったのが「恋しくて」。ロック、ブルース、そして歌謡曲……、それぞれがいろんな音楽を聴いてて、体に染み込んでた。そんなBEGINのフィルターを通して出てきたのが「恋しくて」です。この曲でまさかデビューするなんて全く思ってなかったよな。初めて作った曲だったし。
02. 「イラヨイ月夜浜」
比嘉 僕らが島唄をやるキッカケとなった曲ですね。同級生に大島保克がいて、ひとつ先輩に新良幸人がいて。高校の時から彼らのステージも見てたし、僕らはロックをやっていたので、島唄は手を出してはいけないという暗黙の約束事のような、そんな気分でした。でもヤスー(大島保克)のデビューが決まったときに、電話があって「栄昇、曲を一緒に作らんか」ということで、できたのが「イラヨイ月夜浜」。ヤスーに歌ってもらえるだけで嬉しくてその想いだけで作ったんです。その後、BEGINが島唄という道を切り開いていくんですけど、この曲が導いてくれたんですよね。この歌とヤスーに感謝してます。
03. 「防波堤で見た景色」
上地 この曲もBEGINの活動の中でひとつのキッカケになった歌なんです。この曲の歌詞は、栄昇が歌詞制作のためにひとりでニューヨークに行って書いたもの。ビリー・ジョエルのような都会的な歌詞を書いてくるかなと思ったら、石垣への想いが詰まった詞だった(笑)。とてもいい歌詞で日本に帰って、メロディーをつけて「防波堤で見た景色」が誕生しました。この曲は、大阪のFMラジオ局802で取り上げてくれて、大阪方面から広がった歌でした。
04. 「涙そうそう」
比嘉 森山良子さんだけを思って作った曲なんです。良子さんがやってたラジオ番組の何周年かの企画で曲をコラボして作ることになりました。僕がラララでメロディー歌って最後だけ「涙そうそう」とカセットテープ吹き込んで、「涙そうそう(仮)」と仮タイトルを書いてお渡ししたんです。BEGINの3人と、この歌に歌詞をつけた良子さんとで初めてリハーサルで合わしたときに、良子さんが涙ぐんだりしていたんです。「これは、何かが起こっている」というふうに感じました。
05. 「かりゆしの夜」
島袋 BEGINが『琉球フェスティバル』とかに呼ばれるようになった当初、やる曲がないわけ。だから当時、紫の「DOUBLE DEALING WOMAN」とかをアコースティックで演奏してた(笑)。ヤスーと幸人と曲を作ろうということになって、みんなで集まって話ししてた。どうしてもサビで「イーヤーサーサー」にメロディーをつけて歌いたいと思って生まれたのがこの曲。石垣の旧盆といえば、エイサーではなくアンガマなんです。だからエイサーに憧れがあって、エイサーでも歌える曲になったらいいなと、夢見て作った曲なんです。
06.「ボトル二本とチョコレート」
比嘉 高校の時にバンドを組んでいて、盛山達也って言う奴がドラムを担当していました。達也は東京に出て、音楽を続けてました。ぼくらも東京でBEGINとしてデビューして、一緒にツアーを回ったこともあったんですよ。正式に達也に「おまえもうメンバーに入れ」と話したら、彼は「おまえたちは3人でBEGINだから、俺が入ってはいけない」と頑なに断られました。達也はそれからしばらくして白血病で若くして他界しました……。この歌は、彼のお通夜の時に東京にいる仲間がみんな集まったときの風景なんです。ボトル二本とチョコレートがあって、酔っ払うでもなく呑んでて、「なんかあの時楽しかったな」という思い出が歌になったんです。歌の最後の部分で図らずもコール・アンド・レスポンスのようになって……。巡り合わせというのは不思議だなと思います。
07.「島人ぬ宝」
上地 日本復帰30周年に向けて、石垣島の中学生が表現した島への思いを基に誕生したのがこの歌。僕らの同級生だった石垣史昭さんが担任を務めていた中学校の生徒に詩や作文を書いてもらいました。そのなかに、「自分のばーちゃんが宝です」とか「この島が私の宝ものです」とか、「宝」という言葉がたくさん出てきたんです。その「宝」をキーワードに歌を仕上げました。
比嘉 この出会いがなかったら「島人ぬ宝」はなかったよな。
08.「オジー自慢のオリオンビール」
島袋 僕らはデビューからしばらくはずっと東京に住んでいて、沖縄に帰る度にオリオンビールのCMとか見てました。「いつかBEGINでもやらしてもらえたらいいな」と話してて、実現したのが「オジー自慢のオリオンビール」です。最初、この曲を提出した時のリアクションがいまいちだったんです。オリオンさんは、BEGINに対して洋楽的な爽やかなイメージを求めてたみたいで。一旦、「これ、どうなの?」的な話になったんですが、オリオンさんの社内で、若手のみなさんが「この曲はヤバイよ」って盛り上がってくれていたそうです。自然発生的に盛り上がって「オジー自慢」に決まったという話を聞いて、とても嬉しかったです。
09.「笑顔のまんま」
上地 明石家さんまさんが司会を務めたフジテレビの『FNS27時間テレビ!! みんな笑顔のひょうきん夢列島!!』(2008年7月26日 – 7月27日放送)の深夜コーナーの中で、「番組のエンディングテーマを作ってくれまっか」と依頼されたのがキッカケです。はじめ僕は、冗談かと思いました(笑)。それに乗った優がいて、「できますよ」って(笑)。
比嘉 歌のメロディーのベースは優が担当、僕がそれを曲としてまとめて、等がアレンジするっていう、完全分業で作ったな。で、一回だけリハやって、番組の本番で歌ったな(笑)。
10.「海の声」
島袋 マネージャーから「au のCMソングの話が来てる。締め切りまで1週間しかないけど……」って話が来たんです。その時に絵コンテを見たら、浦島太郎が三線もって海を見ながら座って歌を歌ってる。すごく感動したんです。沖縄の楽器が、これだけポピュラーになったのかと。だから、すぐに「やりたい」と答えました。これだけみなさんに愛される歌になるとは想像もつかなかったです。友達の店とか行っても、必ず誰かが歌ってくれてるみたいな……。それ聴くと、「こそばゆいけど嬉しい」みたいな気持ちがありましたね。
ーー 改めていい曲ってひとり歩きして、広がっていくんだなと感じました
島袋 そうですね。初めてブラジル行ったときに、BEGINの曲でエイサーを踊ってくれてるんですよ。本当に曲って旅をするんだなって実感しました。
『24-7のブルース』BEGIN x PREMIUM CRAFT 75BEER Music Video
ーー 今年の夏、配信リリースされた、オリオンプレミアムクラフト「75BEER」のCMソング「24-7のブルース」は、すごく勇気が出る曲になってますね
島袋 このCMソングの第一弾は歌詞なしでハミングのバージョンからスタートしたんです。徐々に歌詞を入れて展開していこうという計画だったんですが、第二弾に入る前に新型コロナウイルス感染症が世界中に広まって、一体何を歌えばいいんだろうって考えたんだよね。ブルースって歌詞に数字が入ってることが多くて、数字を入れたいなと漠然と思ってたわけ。それでタイトルを「24-7のブルース」にしました。「トゥエンティ・フォー・セブン」とは24時間、7日間、「年中無休」のという意味。 「マクトゥーソーケー、ナンクルナイサ(自分が正しいと思うことを信じて歩めば、必ず何とかなる)」という歌詞があるのですが、自分に言い聞かせている側面もあります。頑張れっていう応援歌というより、一緒に頑張っていこうという気持ちで演奏してます。
ーー コロナ禍で頑張っている沖縄のアーティスト、エンターテインメント界にBEGINのみなさんからエールを!!
上地 このコロナ禍で必要なものとそうでないものがふるいにかけられている気がします。それが終わった先には、きっと素敵な世界が待っていると感じるんです。それを信じて、未来を楽しみに一緒にがんばりたい。
島袋 世界中の音楽、エンターテインメントに携わる人には、誰にでもチャンスがあると思っているんです。今は、みんな同じスタートラインにいる。だから、誰よりも面白いこと、面白い曲が、ピックアップされる時代だと思うんです。「お互い頑張っていきましょう」と若いミュージシャンに伝えたいです。
比嘉 僕も好機だと思います。自分らの中には、昭和の時代からいろんなものが吸収されているんだけど、それがこの先必要かと問われると、そうでもないものもある。それを簡単に手放せるかというと、なかなか難しい。新しい人たちには新しい概念、アプローチ、力でそれを蹴散らして欲しい。それを見せてもらいたいと、期待してます。
ーー メッセージをお願いします
島袋 「こんなギター弾きたいなとか」久しぶりにギター小僧に戻れたりしたので、30周年の年に、チャンスをもらったと感じてます。これからも3人で頑張ります。応援よろしくお願いします。
上地 島で生まれた僕らがこうやって30年続けてこれたのは、みなさんの応援があってのことだと思います。とても感謝しています。本来は、30年のお礼をしに全国を回りたかった。この状況が落ち着いたらみなさんの元へ伺います。ぜひBEGINに会いにきてください。
比嘉 沖縄本島で暮らして、戦争とどう向き合っていくかという、答えが見えない答え探しみたいなことをずっとやっています。時代の風が吹く、風にのってみんながひとつの方向に向かっていった。「風ってこういうことか」。コロナで世界中が風にのってどんどん変わっていく。でもふと考えると「戦争より100倍良いや」って思うんですよね。今の状況は、いいとは言えないんだけど、オジーやオバーが体験した歴史と比べるとなんて幸せなんだと。俺らは新しい未来に期待しようと思ってます。そういう大きな時代の転換期にいる自分、貴重な体験をさせてもらっていることを考えると、BEGINの30周年とかとても小さなことに感じられたりします。音楽そのものももっと大きく、世界中に音楽が溢れる時が「俺らの時代が戻った時だぜ」、そんな気構えで日々過ごしたいと思います。
ーー BEGINの35周年、40周年、ずっとこの先もインタビューができることを心から願ってます
BEGIN ありがとうございます!!
【BEGIN PROFILE】
上地等(Pf&Vo)、比嘉栄昇(Vo)、島袋優(Gt&Vo)。メンバー全員、沖縄県石垣島出身。1990年『恋しくて』でデビュー。その後も順調にリリースを重ね、数多くのステージに出演。代表曲の「島人ぬ宝」、「涙そうそう」、などは老若男女に歌い継がれる楽曲となっており、最近では「海の声」が反響を呼ぶ。2020年3月21日でデビュー30周年を迎えた。
詳細:BEGIN Website
▶︎サポーターカンパニー:オリオンビールWEB SITE
・結成30年 BEGIN スペシャルインタビュー完全版
沖縄タイムス電子版連載「幸田悟の沖縄音楽旅行+プラス
※BEGINデビュー30周年スペシャルインタビューは、沖縄タイムス電子版『沖縄タイムスプラス』内連載コーナー『幸田悟の沖縄音楽旅行+プラス』に掲載してます。2021年1月12日(火)更新
デビュー30周年を迎えたBEGIN が、オリオンビールのプレミアムクラフト「75BEER」のCM に本人出演し、また書き下ろした楽曲「24-7 のブルース」を配信リリースした。「24-7」とは、「トゥエンティフォーセブン」、24時間・7日間、「年中無休」を意味している。歌詞に沖縄の人には馴染み深い言葉、「真ソーケー ナンクルナイサ」を盛り込み、「自分が正しいと思うことを信じて歩めば、必ず何とかなる」という願いを込めた。「24-7 のブルース」は、頑張っている全ての人に向けたメッセージソングです。 アレンジはBEGIN のルーツのひとつであるブルースに仕上げ、歌は島袋 優がメインをとりつつ、上地 等、比嘉栄昇もそれぞれのパーソナリティーを活かしたパートを担当している。世界中がコロナ禍で疲弊している現在、時代が求めている歌が誕生した。
【BEGIN /24-7 のブルース】
ARTIST:BEGIN
CD TITLE:「24-7 のブルース」
RELEASE:2020年8月19日(配信リリース)
詳細:BEGIN「24-7 のブルース」配信一覧
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